引き算ジャンル

広告代理店に入りたての頃、先輩CDに「新製品は新ジャンルという視点で考えろ」とアドバイスされた。新製品を新ジャンルとしてデビューさせる。例えばアサヒスーパードライは、それまで味わいやコクで競っていたビールに、「ドライ」という新ジャンルを創った。しかも、ジャンル名が商品名なので最強だ。

ジャンル名が実は固有の商標であるという例は多い。旨味調味料は様々なメーカーが出しているが、ジャンルとして世に認識されているのは、「味の素」という商標である。「デジカメ」はサンヨーが持つ商標であり、「キャノンのデジカメ」と正式には言えない。「キャノンのデジタルカメラ」となる。「宅急便」はヤマト運輸の商標だが、「佐川急便から宅急便が届いた」と言っている人はいるはず。「ウォシュレット」はTOTOの商標だが、水洗式便座の代名詞となっている。はごろもフーズ以外のツナ缶も「シーチキン」とは謳えない。「サランラップ」の商標はダウ・ケミカルと旭化成が持っている。

新ジャンルは既存ジャンルの足し算で生まれることがある。例えばジャンボなジェット機だから「ジャンボジェット」、ラジオにカセットが付いたら「ラジカセ」など。

一方、引き算のジャンルも出てきた。サンドしていないサンドイッチだから「サンドシナイッチ」。握っていないオニギリだから「おにぎらず」。カップに入っていないカップ麺なので「ノンカップ麺」。少額のジャンボ宝くじだから「サマージャンボ・ミニ」とか、ご飯の上に牛鍋をかけた牛丼のご飯抜きが「牛皿」とか、込み入った作品もある。

足したり引いたり掛けたり割ったりして新ジャンルが生まれることは楽しい。こういった、ありものの使い回しで生まれた発明には遊び心を感じる。「サンドシナイッチって、ただのオープンサンドか」ではなく、「サンドシナイッチ、面白いね」と反応できる感性を無くしたくない。