続きはあなたの創造力で

答えを示すためのコミュニケーション。でも、答えを相手の創造力に委ねるというコミュニケーションもある。

ファンの想像力と創造力に委ねられた「THIS IS IT」。

マイケル・ジャクソンの「THIS IS IT」を観た方は多いと思います。マイケル自身は、コンサートの本番を迎えることができませんでしたが、そのリハーサルなどの映像で構成されたメイキングフィルムです。撮影時にこの映画を製作することが決まっていたかどうかは分かりません。しかし、もしコンサートが実現していたとしても、この映画はメイキングを超えた価値があることは疑いないでしょう。この映画の演出は、ロンドン公演のクリエイティブ・パートナーのケニー・オルテガです。マイケルへの愛と、実現できなかったコンサートへの強い想いが込められていることを全編から感じます。映画はコンサートをめぐるマイケル・ジャクソンの「人」を描いており、「マイケル・ジャクソンとは何者か」がコンセプトでしょう。一方で「ファンの想像力で創るコンサートの素材集」というコンセプトも成立するのではないでしょうか?映画の中で過程と素材を並べておいて、「完パケは、あなたの想像力と創造力で」と投げかけているわけです。マイケルから託されたこれらの素材を使った無数のステージが、それぞれのファンの脳内に出現すると言ったら考え過ぎでしょうか。

広告も受け手の想像力を信じる表現を。

映画のタイトルの「THIS IS IT」には「さあ、いよいよだ」という意味と、「もう、これで終わりだ」という意味もあるらしいのですが、それさえ、観る側に任せたと考えることもできるでしょう。話は変わりますが、サザンの無観客コンサートは、横浜アリーナでフルスタッフによって、通常のコンサートに劣らないスケールで実施されました。完璧なステージを用意しておいて、「そこに、あなたというピースを嵌めるのだ」というメッセージを投げかけたのではないかと感じました。広告もかつては「答えはあなたの想像力で」とか「このピースに嵌るのは、あなただ」というような、受け手に答えを託す表現が多かったと思いますが、今は「答えはこれです」という直球表現が多いのではないでしょうか。かなり昔の話ですが、不動産業界に特化した広告代理店が開発したコピー生成システムがあったと記憶しています。物件の条件を入力すると、最適なキャッチとボディコピーが自動生成されます。広告のコピーや表現も、AIでも開発できる、というかその方が効率的なものと、人だけが持つ創造力から生み出され、受け手の想像力を刺激してゆくものとに、二極分化されるのかもしれません。