あらこんなところに牛肉が

売りたい気持ちと、売られる気持ち。同じベクトルを向けば、消費者を味方にするコミュニケーションに。

虚構である広告が、リアリティ視点で批評される。

「炎上CMでよみとくジェンダー論」、みなさん読みましたか?鋭い分析と考察で、とても参考になりました。CM制作の現場としては、いろいろと言いたいこともありますが、それはまた後日にしたいと思います。私の場合、悲しいことに話題作がないゆえか炎上CMもありません。かなり過去の話で恐縮ですが、大先輩のCDの仕事で、炎上ではありませんが、新聞紙上で批評された作品があったことは近くで見ていたことがあります。それは牛肉を使うあるインスタント食品のCMでしたが、女性タレントが演じる主婦が冷蔵庫を覗いて、「♪あらこんなところに牛肉が~」と歌い出すというストーリーです。そのCMに鋭く反応したのが、さる高名な広告評論家でした。「買い置いた牛肉を主婦が忘れるはずはない、庶民の感覚とズレた表現」と、全国紙の人気コラムで酷評されたのでした。このCMを文字通りにたどれば、そう批評するのも分かりますが、このCMは生活のリアリティを描いたわけではなく、メロディーにのせて親子にオンリップで歌わせたりして、「これはCMとしての虚構ですよ」という建付けにしてあるわけです。これが「え・・・やだ・・・牛肉・・・忘れてた」というような主婦のつぶやきだったなら、そう批評されてもしょうがない。当の主婦からそう指摘されたならしょうがない。しかし特にクレームは来ていない。性役割差別したわけでもない。なんでいきなり新聞紙上で批評されなければならないのか。という憤りがあったのでしょう。その後、スーパーで「あらこんなところに牛肉が」と歌うタイプも作られました。精肉売場で「あらこんなところに」って。これで気が済みましたかというメッセージだったのでしょうか。さらに「帰宅したらなぜか玄関に牛肉が置いてある篇」や、「牧場の牛を見て歌いだす編」のコンテも見たような記憶があります。実現してはいません。

企業の人格を売るのも広告、ケンカは一利なし。

商品やサービスを買ってもらうことは、もちろん広告の目的ですが、消費者を味方につけることがさらに重要な役目なので、どのような企業であれ商品であれ、世の中を敵に回すメリットはまずありません。もちろん、消費者から同様のクレームが大量に届いたとか、大々的にメディアで問題として取り上げられてしまったとかであれば、すでに世の中との交戦状態に入りつつあるわけですから、すみやかに停戦・終戦処理をしないといけませんので、誠実に対応していきます。クレームも想定外の角度から届く場合があります。というか、だいたいこちらにとって想定外だからクレームとなるわけです。私が関わったものでは、これもだいぶ昔の話ですが、エアコンのCMで故・志村けんさんがCGの赤ちゃんと踊るというCMがありました。赤ちゃんを躍らせるのは虐待では、という趣旨の指摘が2、3件来ました。いかにもCGですという感じで合成した赤ちゃんだったのですが、きっとリアルな印象だったのでしょう。そう感じた人がいれば、それは動かせないことなので、しっかり対処しました。方法は内緒ですが。広告の目的が商品を売ることにある場合、それはその企業やブランドの価値観や人格も込みで評価して買っていただくということでもあります。それは「お客さまは神様です」という姿勢より、お客さまといっしょに進んでいくという姿勢に近いと思います。