オリエン返しを超えて

ある食品メーカーの定番商品の新CMの競合プレがあった。「美味しさを訴求せよ」というオリエンだった。他の広告代理店の提案は、調理のシズル感やアレンジメニュー訴求だったようだ。

しかし競合商品が溢れる店頭で、手に取ってもらう決め手になるのか。それよりも、定着し親しまれているジングルを強く訴求し、店頭でリマインドしてもらう方が効果を発揮するはずだ。もちろん美味しそうなシズルカットは入れるが。そう考えて、全てをジングル訴求篇として提案した。プレゼンの場で決定いただいた。

オリエン返しではない提案が功を奏したのは、最終決定権のある会長へのプレゼンだったからだ。オリエンを作成したクライアントの宣伝部からは、後で叱られたけれど。

CMのオリエンに対して、他のアイデアで返すこともある。今回の課題を解決するには、CMよりイベントが効果的です、などと。そんな企画と心中するのは潔いが、営業は不安だ。そこでオリエン返しチームと、オリエン破りチームで臨み、リスク分散することもある。また、オリエン返しではない提案が、大きな成果を生み出すこともある。

かつてあるビールメーカーの、飲酒運転撲滅キャンペーンの競合プレがあった。こちらは広告やプロモーションを提案したが、結果は不採用に。後になって、他の代理店がキャンペーンの提案ではなく、ノンアルコールビールの製品開発を提案したと知った。それが飲酒運転を減らすためにビールメーカーができる本質的な答えという提案だ。かくして、初のノンアルコールビールが誕生した。オリエン返しを超えた鮮やかな提案が、後に大きなマーケットに成長する新ジャンルを創出した見事な例だ。