プランナーズハイ

プランニングが回りだすと、その先へ、その先へと、どんどんはまっていくことがある。一人の頭の中ではまっていくこともあるが、チームとしてはまっていくこともある。

かつて、あるビールの新製品開発プロジェクトに参加した。まずクライアントから示されたのは、味や製法などのプロダクトの情報ではなかった。ビールの新しい情緒的価値と、それを伝える広告表現を見つけよう、だった。既存のビールを飲みたい気分とは全く異なる「新しいビール気分」を見つけよう。そしてそこを起点として、広告表現、味、香り、ネーミング、パッケージを開発していこうというオリエンだった。経験したことのない実験的なプロジェクトである。

味覚訴求でもなく、オケージョンやウイズフード提案でもなく、健康・本物などの価値観でもない、ビールの新しい気分。難問である。たどりついたのは、「何気ない今日、ふとしあわせな自分に気づき一息つく。そんな気分で飲む、そんな気分になる」気分だった。「マイペース休息」というコンセプトを置いた。そんな気分を現す表現、そんな気分になる味と香り、ネーミングとパッケージを作っていこう。

クライアントも、広告に関わりのなかったメンバーを入れて斬新なチームである。社内のスタッフにも新しい血を入れた。パッケージデザインには、ビールに精通したデザイナーに加え、パッケージとは無縁だったアーティスト、グラフィック広告の表現から発想するためのアートディレクターも参加した。新鮮なデザインが上がり、グルインの評価ではそれらが上位を占めた。

CMやプロモーションも同時進行で考えた。表現の方向を絞るだけでなく、広げる方向でも提案していった。ここまでいくと新ジャンル感はあるが、もはやビールなのか。これなら普段缶ビールを買わない人にも振り向いてもらえる。コンテは300案以上も作っただろうか。ランナーズハイならぬプランナーズハイだった。今思い返すと楽しい経験だ。オリエンの1週間後にプレという案件も楽しいが、このような経験もまた幸せであり、財産となっている。